古くて狭いオフィスの思い出について
道ばたで古い知人に出くわすと、一瞬誰だか分からないものだ。顔は覚えているのに、誰だったっけ‥?そうだ、私が20代の初めに勤めていた広告代理店の先輩だった。当時を思い出すと、色んなことが脳裏に浮かんでくる。営業所長はじめ、私を含めて全員で4人という小さな事務所だった。けれど私がいた営業所の業績自体はさほど悪くもなく、勤めていた数年の間に時間外勤務や休日出勤をしたことは、一度としてなかった。聞けば最近こそ売り上げは下がったけれど、それでも昔とさほど変わらない勤務状況だという。今思えば、いい会社を辞めてしまったものだ。築30年ほどのビルの一角。古くて狭い上に乱雑に物が散らかったオフィスだったけれど、思い出には事欠かない。入社間もない頃に営業所長から、契約を取れたらカニをおごってやる、と言われて躍起になって駆けずり回ったっけ。事務所は市街地の外れにあったので利便性もさほど悪くなく、昼にはコンビニに買い物に行って公園で昼食を取ったり、繁華街も近かったので、週末には皆で飲みに出かけたことが幾度もあった。「そういえばお前、気管が弱いからって準備してもらった空気清浄帰まだ今でも事務所にあるんだぞ」そうか、そんな事もあったっけ。手狭な机の上、隅におしやられていた年代物の空気清浄機を思い出した。今でもあのオフィスで昔と同じように、時折動作が悪くなりながらも一生懸命『あいつ』が動いているのかと思うと、懐かしい気持ちで胸が締め付けられるようだった。
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